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下町三十年のエピソード断片 丸浜晃彦

 昭和五十五年(一九八〇)十月一日、開館した当館は、五六年二月に最初の特別展、「戦後生活展」を開催しました。評判を呼んだのが、焼け跡のシンボルともいえる壕舎と呼ばれたバラック小屋でした。壕舎は、空襲で家を失った人びとが拾い集めた古材や焼けトタンで組み立てましたが、当時のスタッフは適当な古材を求めて区内の解体現場を回り、旧都営バス車庫などから、古瓦や柱、トタンを譲り受けて再現しました。かたわらにドラムかんの風呂を置き、窓は押し上げて開閉する形ばかりのものでした。内部には裸電球や石油ランプを吊るし、買出し用のリュックなど当時の生活をしのぶ資料が展示されていました。敗戦直後を経験したスタッフの労作でした。

 今でもその姿が目に浮かび、懐かしく思い起こす人がいます。それは五十七年の特別展、「東京の小芝居展」でのこと。この時は、歌舞伎俳優の話を聞くために、小さな舞台を作りました。そこに、三味線を弾き太鼓をたたく山形勝重さんの姿があり、バチの手さばきひとつ、太鼓の音で雪の音、雨の音などをたんたんと演奏されました。明治三十四年生まれの山形さんは、大正十年頃から、浅草の小芝居、公園劇場、宮戸座、観音劇場などの歌舞伎の伴奏や効果音を担当した下座のはやし方で、戦後は、歌舞伎座、浅草松屋のかたばみ座にも出演された、下座音楽の貴重な方でした。のちに楽器などを寄贈され、展示もしましたが、下座音楽も小芝居も一般にはなじみがないものなので、これからも機会を見て展示できればと思っています。

 またある時、役所の福祉担当から連絡があり、根岸に一人住まいのご婦人が亡くなられ、遺品を見てもらいたいとのこと。行ってみると、雑誌や文書のようなものがたくさんありました。その中に、昭和初期の外務省関係の資料、戦後の子規庵や正岡子規と寒川鼠骨に関する資料が含まれていました。この時は夏の盛りで、車両も都合がつかず雑誌等を風呂敷に包んで運ぶことにしましたが、汗にまみれて数回往復するという苦しい収集となりました。この家のご主人は外務省をやめたあと、根岸の子規庵に出入して、鼠骨と親しくされていたようです。重かったこの時の雑誌、鼠骨筆のメモや田端大龍寺の子規の墓碑銘を写し採ったものなど、この寄贈資料は、平成五年、正岡子規の特別展で展示することができました。

 昭和五十九年には、旧西黒門町(現上野一丁目)の元材木仲買店から、「何かのお役にたてば」と寄贈の申し出を受け、鎌倉まで二トントラックで収集に出かけました。その中から資料を選択し、他の資料と合わせて昭和庶民展を企画しました。関東大震災後の区画整理の移転命令書、ラジオ聴取許可証、徴兵検査の通知書など、一家族の生活資料を中心にして、震災から敗戦後の約三十年間を庶民の昭和史として綴ることができました。

 平成二、三年のことですが、台東区の歴史と文化からはずすことができない浅草六区の興行、その興行館の中で、かろうじて営業を続けていた昭和初期の劇場、浅草常盤座・東京倶楽部・金龍館の廃業が報道されました。四年には取り壊すとのこと。建築の装飾部分を寄贈していただくよう松竹に申し入れを行いました。事前に内部を撮影し、取り壊し当日には、トラックを横付けして装飾の石膏レリーフなどを収集しました。浅草の娯楽や興行を企画展示する時、このレリーフが活かされています。

 平成十六年の特別展「喜劇王エノケンと浅草の笑い」で、エノケン一座の関係者と出会ったことも忘れることはできません。もともとこの企画は、榎本健一生誕一〇〇年記念として一座のかつての関係者からの依頼がきっかけでした。当時の脚本家を知り、資料の公演写真の順序やあらすじを教えていただきました。また、展示中に一座の女優だったという人、俳優の親戚で公演プログラムに名前がでていてうれしかったという人、弟子だという人など、展示中にも出会いがあり、何か空白部分が埋められたような気持ちがして、やってよかったと思いました。

 三十年の間にはいろいろのことがありましたが、これからも、収集した資料を展示する機会を増やすこと、わかりやすく、触れて楽しめる展示をめざすこと、これが、三十年間を振り返って改めて感じたことでした。


開館30周年記念特別展
下町の庶民文化−明治・大正・昭和からのおくりもの−
前期9月18日(土)〜 10月24日(日)
後期10月26日(火)〜 11月28日(日)

30周年記念イベント
10月1日(金)落語 林家正雀
10月2日(土)紙切り 林家今丸
10月3日(日)街頭紙芝居(当館前)梅田佳吉・スズキ スズ
◇この3日間は、来館者に各種記念品プレゼント(数に制限があります)


 

(すがやたかお・台東区立下町風俗資料館館長)

 


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