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企画展 鳥類の多様性 〜日本の鳥類研究の歴史と成果〜 西海功

婚姻色のトキの剥製
婚姻色のトキの剥製 
1983年に死亡した「シロ」(メス)の剥製標本。
輸卵管に卵が詰まって死亡したために 薄墨色の婚姻色を残した珍しい標本になった。
(カラー小写真を巻末51頁に掲載)

日本鳥学会が1912年に創設されてから今年で100年の節目を迎えました。それを記念して、日本鳥学会と山階鳥類研究所に後援いただき、国立科学博物館でこの企画展が開かれています。北海道大学植物園・博物館や我孫子市鳥の博物館など多数の博物館と多くの鳥類研究者による最大限の協力の結果として実現した夢のような展示で、おそらく今後、これだけの貴重な鳥類標本・資料がまとめて見られる機会はないと思われます。

何といってもまず見ていただきたいのは入口にある2点のカンムリツクシガモの標本です。普段は山階鳥類研究所の標本庫に厳重に保管され、研究者でさえ滅多に見ることができません。世界に3点しかなく、特にオスの剥製は世界でもこの1点しかありません。30年ぶりの公開です。色々な角度からじっくり見ていただきたいです。珍しいことにタイプ標本はメスの方で、その可愛らしさには釘づけになります。記載者の黒田長禮が1917年に釜山の剥製屋で偶然見つけ、見たことのない不思議なカモだと直感し購入したそうです。帰国後、調査して、新種であることを確信し、日本鳥学会の機関誌「鳥」に記載論文を出しました。しかし、世界的に著名な分類学者であったハータート博士に論文を送ったところシュレーター氏の論文をあげて、雑種だというのです。もし、新種であれば、同じ姿の鳥が他にも見つかるはずだということです。その後、オスの剥製が見つかり、江戸時代の図譜にも「朝鮮おしどり」としてこの鳥の絵がつがいで描かれていることが発見されます。堀田正敦の寛文禽譜に納められた絵です。普段東京国立博物館の書庫に保管されている絵と山階鳥研の剥製が同時に見られるのは初めてのことではないでしょうか。

その他にも次のような貴重な標本・資料が見られます。婚姻色のトキの剥製標本とその骨格標本、そしてシーボルトがオランダに送った標本を基に描かれた「日本動物誌」のトキの絵。ブラキストンが明治時代に函館に住んで北海道とその周辺の動物相を調べた結果、ヨーロッパから北海道までは動物相が似ており、本州以南とは違うことを発見した時に実際ブラキストンが手にしたヤマゲラとアオゲラの歴史的標本。世界で1点の標本しか知られていないミヤコショウビンのタイプ標本。旧徳島藩主蜂須賀家の第16代当主、蜂須賀正氏が財力を発揮して購入し、それを元に世界的な研究をおこなったドードーの骨格断片標本、同じく正氏がフィリピンのアポ山探検の際に購入した絶滅危惧種フィリピンワシ(サルクイワシ)の本剥製標本。中国東北部の調査をおこなった第一次満蒙調査団の仮剥製標本とそれを基に画家小林重三が描いた絵。そして山階鳥類研究所の創設者、山階芳麿が研究したキジ科の鳥の雑種の仮剥製標本などです。

貴重な標本・資料だけでなく最新の研究についても紹介しています。ゲノム研究を基にした鳥類の新しい分類の順序に従って、代表的な18のグループの骨格標本と剥製標本を展示しました。また、DNAから種を同定する手法であるDNAバーコーディングによって解明されてきたDNAの分化と形態の分化、さえずりの分化の不均等について、メボソムシクイ類やアカハラ類を例に解説があります。

生態の研究も近年大きな発展を遂げてきた分野です。少し夢のない話になりますが「おしどり夫婦」に代表される鳥の仲の良いつがい関係は、見た目だけ、あるいは人の願望であって、実際にはオスはつがい相手以外のメスとの交尾を求めるし、メスもより良い遺伝子をもったオスと交尾する機会を伺っているということがDNAによる親子判定の結果わかってきました。他の鳥の巣に卵を産み込む托卵鳥として有名なカッコウの仲間であるジュウイチのヒナは1羽で仮親の給餌を独占しますが、仮親はヒナが1羽しかいないと餌を十分に与えず、体の大きなジュウイチのヒナは大きく育つことができません。そこでジュウイチのヒナは、翼の角の黄色い部分を仮親に見せて、あたかもヒナが3羽いるかのように見せかけて、仮親の給餌行動を促します。托卵鳥も決して楽ではありません

フィリピンワシの剥製
フィリピンワシの剥製
蜂須賀正氏がフィリピンのアポ山を探検したときにフィリピンで購入した剥製で、
その著書『南の探検』にも購入の経緯が記されている。
現在では、ワシントン条約により輸出入が禁止されている。

鳥の渡りについてはむしろその能力に感心させられます。発信機を付けて衛星追跡をおこなうことで、ハクチョウや猛禽のハチクマなどの大型の鳥の渡りがリアルタイムでわかるようになっています。ハチクマは季節による風向きの違いや天候の不順をよく知っていて、荒れた天候を避けて渡りのルートやタイミングを決めていることが分かりました。また、データロガーと呼ばれる記録装置を付けて回収することでブッポウソウなどの比較的小型の鳥でも越冬場所などがわかるようになってきています。最新機器を使わない単なる観察という方法だけでも、サギが餌をとるために様々な方法で魚をおびき寄せていることが知られるようになりました。

近年、社会的に重要視されているのが、保全研究・保全活動です。日本で繁殖している鳥類の種数が最も多いのは高山や河川・水辺を含む環境です。島は固有種が多く、絶滅した鳥も多くいます。これらの環境が重点的に保全される必要があります。一度は野生絶滅したトキが今年、日本の野外で巣立ちました。トキの繁殖行動の映像が環境省と新潟大学の提供によってご覧いただけます。トキとコウノトリは共に農村環境によく適応していた鳥でしたが、農薬や狩猟によって一度は絶滅の淵に立たされました。彼らが生息できる農村環境を作っていくことは、私たち日本人の環境を守っていくことにもつながります。また、アホウドリやヤンバルクイナは絶滅しやすい島の鳥として優先して保護されています。

トピック展示として、羽と関連した日本の伝統文化を取り上げています。お盆の上に石や砂を使って雄大な自然を表現する盆石では、体の部位によって違いのある鳥の羽の特徴をうまく利用してきました。茶の湯では、炭をつぐ時などに羽箒でその場を掃き清めます。主に大形鳥類の風切羽や尾羽が使われ、三枚重ねの「三ツ羽」は千利休( 16世紀)が創始したと言われており、現在も使われています。

この企画展と併せて、地球館3階の奥に「鳥の多様な形」というコーナーがあり、160種余りの鳥の剥製が見られます。このコーナーでは肉食、魚食、昆虫食など食性に分けて展示していますので、食性の違いによる嘴の違いや同じような食性でも餌の採り方によって異なる体の違いについて観察してみてください。

(にしうみいさお・国立科学博物館動物研究部)

 


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