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中国文明っておもしろい!
〜『誕生!中国文明』展への誘い〜
松本伸之

 中国に対するイメージは、ここ十年ほどの間に、劇的に変化してきているようです。そして実際のところ、オリンピックや万国博覧会といった世界的な大イベントを契機としながら、一躍、世界の中でもっとも影響力のある国の一つに発展してきていることは、もはや誰にも否定できないでしょう。もちろん、この国の将来像には、まだはっきりと見定めがたい点も多々ありますが、その一方で、過去数千年にわたる、文字通り悠久の歴史の中で、ある意味では今日以上に多大な影響を周辺諸地域に与え続けてきたことも、まぎれもない事実です。

『誕生!中国文明』展

 とくに、アジアの東端に位置し、中国と隣り合わせる日本では、中国との関わりを抜きにしては自国の歴史を充分に語りつくすことができないほど、古くから密接な関係を保ってきました。この意味では、今日でも、中国と日本の関係は、長い歴史の展開が示してきた方向と同じ軸上にあるといえるのかもしれません。

 では、その中国は、そもそもどのようにしてはじまったのでしょう。そして、その文明は、どのように展開してきたのでしょうか。今回の展覧会は、紀元前二千年頃、中国で最初の王朝が生まれた頃から、文人が活躍した北宋(ほくそう)時代が終わる十二世紀前半頃まで、常に中国の中心地域として機能してきた河南(かなん)省の文物によって、大国・中国の文明の真髄をご覧いただこうとするものです。

王尚恭墓誌(部分) 河南博物院蔵

 ところで、ここで河南省といっても、「それはどこ?」と思われる方も少なくないでしょう。河南というのは、大河として知られる「黄河」の「南側」にある地域ということから付けられた名前です。実際には、黄河の中下流域のほとりにあって、古くから「中原」と呼ばれてきた地域が中心となります。現在の中国では、全国が三十あまりの行政区画に分かれていますが、河南省はその中でも最多の一億もの人が住み、私たち日本人が抱く省という概念をはるかに超えた巨大な地域といえるでしょう。そしてこの地域は、中国最古の王朝といわれる夏(か)の拠点が置かれたのをはじめ、商(しょう)[殷(いん)]、周(しゅう)、漢(かん)、魏(ぎ)、晋(しん)、北魏(ほくぎ)、宋といった名だたる王朝が都を構え、数千年にわたって中国の政治、経済、文化の中心地として重要な位置をしめてきました。河南省の歴史や文化を眺めることは、中国文明のエッセンスを見ることに等しいといっても過言ではありません。

 河南省のあらましはこれまでとして、肝心の展覧会の内容をみてみましょう。この展覧会では、歴史の順を追って構成する通例の中国展とは異なり、「王朝の誕生」「技の誕生」「美の誕生」という三つの切り口によって、中国文明の特色を照らし出します

 はじめに、「王朝の誕生」です。近年、中国最古の王朝ではないかと注目を集めている夏を筆頭に、青銅器の製作が発達し、現在の漢字の元となる文字が生まれ、展開した商(殷)と周、そして、数多くの国々が競い合い、孔子や孟子といった思想家が活躍した春秋戦国時代を経て、中国全土が統一的に支配されるようになった漢時代まで、およそ二千年間の王朝の展開を、各時代の第一級の文物によってたどってみます。文明の誕生と発展は、王朝の展開と密接な関係を持っていることはいうまでもありません。また、中国文明の特色は、工芸技術が極度に発達したことにも現われています。第二部「技の誕生」では、青銅器や玉器、漆器、陶磁器といった中国ならではの文物に着目し、その高度で独特の造形を通じて、いつの時代にあっても、理想とする形や色をあくことなく追求し、新しい技術を次々と生み出していった中国文明の姿を浮き彫りにしていきます。多種多様な優品の数々は、それが作られた時代の最先端の技術をなによりも雄弁に物語っているのです。

 きわめて高度な技術に裏打ちされて作り出された品々は、同時に、類まれな美しさも備えています。第三部の「美の誕生」では、こうした中国の美がどのように形成されてきたのか、とくに彫刻や絵、書の逸品を通して振り返ってみます。神仙思想や仏教に基づく宗教的な彫刻をはじめ、墓室や器物に表わされた絵、さらに漢字の発生段階から独自の発展をとげた書など、伝統の上にたちながら、革新的で強な中国固有の精神が盛り込まれているものばかりです。理想美を追求しつづけたことによって結実した中国の芸術作品は、どれをとっても他の文明のそれとは異なる独自の境地を示しています。

三彩双龍耳瓶 鄭州市文物考古研究院蔵

 数千年にわたって絶えることなく継続してきた中国文明の歴史には、まだまだ不明なところも少なくありませんが、いまに残る多彩な文物を読み解き、鑑賞することで、中国文明の新たな側面を発見できるにちがいありません。この機会に、中国文明の奥深いおもしろさを、じっくり味わってみてはいかがでしょう。

 

(まつもと のぶゆき・東京国立博物館学芸企画部長)

 


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