
「奈良の大仏」で親しまれる東大寺・盧舎那仏(るしゃなぶつ)は、奈良時代、8世紀半ば、不安な世情を憂いた聖武天皇が、国家と民衆の平和を願って造立しました。平安時代末期と室町時代の2度、戦乱で焼失しましたが、そのたびに多くの人々の力で復興され、高さ約15メートルのお姿を今日に伝えています。
この展覧会は、聖武天皇とともに大仏造立という大事業を成し遂げた光明皇后の1250年御遠忌を記念して、10月8日(金)から12月12日(日)まで、東京国立博物館・平成館で開催するものです。大仏にゆかりの深い東大寺の宝物を中心に、天平文化の清華をご紹介します
聖武天皇と光明皇后は、夭折した皇子の菩提を弔うために山房を造営しました。東大寺の境内の山中からは、東大寺創建より古い時期の瓦が出土しており、その山房が発展したともいわれる金鐘寺など、いくつかの寺を合わせて総国分寺としての金光明寺が成立し、東大寺の前身になったと考えられています。会場では、東大寺創建当時の大型の鬼瓦や、聖武天皇筆と伝える西大門勅額「金光明四天王護国之寺」などが皆様をお迎えします。

大仏殿の前庭中央にある八角燈籠(国宝)(カラー頁)は、2度の兵火から難をまぬがれた東大寺創建時のもので、唯一、造立当初から大仏と寺を見守ってきました。高さは4・6メートルで、羽目板や扉には楽器を演奏する音声菩薩、獅子がレリーフで表されています。大仏殿の東にある法華堂の本尊不空索観音菩薩立像の光背(国宝)も、この時期の貴重な寺宝で、高さはおよそ5メートルです。いずれも寺外で初めて公開します。
灌仏会の本尊としてつくられた誕生釈迦仏立像(国宝)(カラー頁)は、古代の誕生仏では日本最大として知られ、おおらかで豊満な表現に天平盛期の特色がよく表れています。深皿状の灌仏盤の表面には草花や飛仙など天平の図柄が細かく刻まれています。また、明治36年(1903)から開始された大仏殿修理作業で、盧遮那仏の蓮華座蓮弁の周縁から出土した金堂鎮壇具(国宝)(カラー頁)の数々も天平文化の華麗さを示すものです。鎮壇具の銀壷には、馬に乗って鹿を追い、弓を引く人物の姿が刻まれています。金鈿荘太刀に表された葡萄唐草文とそれをくわえて飛ぶ鳥、セミの形の銀製金具などは、正倉院宝物とともに天平文化の華やかさを物語る貴重な例です。大仏の完成を祝う大仏開眼供養会などに使用された伎楽面(重文)など、天平の宝物を一堂に展示します。さらに、花鳥彩絵油色箱(国宝)、特徴的な文様が美しい天平古裂などの至宝も見逃せません。
天平勝宝8歳(年)(756)、聖武天皇の四十九日法要の日に、光明皇后が天皇の遺愛の品々を東大寺に奉納したのが正倉院宝物の始まりです。「目にすると泣き崩れてしまいます。大仏の助けを借りて聖武天皇の霊が聖者となり、浄土にたどりつけますように」とその祈りを記しています。正倉院は大仏殿の北西にある東大寺の倉庫でした。明治時代、国の管理になるまで、東大寺が千年以上も守ってきた宝物は、遠くローマやペルシアなどからシルクロードを経て中国に伝わり、遣唐使が持ち帰った国際色豊かな産物や

製品、それらに倣って日本で作られた当時の最高級品が、きわめてよい状態で保存されています。今回は東大寺の展覧会ということで、計十二件が特別に公開されます。大仏の瞳に筆を入れる大仏開眼供養会では、聖武天皇、光明皇后をはじめとした列席者は、筆につながれた全長約200メートルの紐を握って縁を結びました。その時使われた筆・墨や紐(縹縷)(はなだのる)、象と木の文様を染め抜いた布を貼り込んだ臈纈屏風、病人を救うため施薬院を設けた光明皇后が海外から集めた薬のうちの桂心や人参、雲上の菩薩が飛来する様子を大きな麻布に描いた墨画仏像などをご覧いただきます。会期中11月2日.21日( 20日間)のみの展示です。ただし、正倉院宝物展示期間中は月曜日も開館します。

また治承4(1180)には平重衡の兵火により東大寺の多くの堂舎が焼亡しました。その復興に貢献した重源ゆかりの鎌倉彫刻の名品を展示します。重源上人坐像(国宝)( カラー頁)は、最晩年の姿を写したもので、背は曲がり、からだはやせていますが、手はがっしりと大きく、鋭い眼光で、不屈の精神を感じさせます。重源の指示で多くの仏像を造った仏師快慶(かいけい)の代表作として、僧形八幡神坐像をはじめ、阿弥陀如来立像、地蔵菩薩立像なども紹介します。大仏は永禄10年(1567)再度兵火に遭います。この時の復興には時間がかかり、大仏が完成したのは元禄4年(1691)。公慶上人が勧進をはじめてから8年の歳月が費やされました。これら公慶上人の肖像彫刻などを通じて、受け継がれてきた東大寺の歴史と、そこにこめられた祈りを伝えます。
さらに最新のコンピュータ技術を駆使したバーチャルリアリティー(VR)映像で、大仏を間近に体感できます。手や顔のアップや高い位置から見たシーン、平安時代末期に焼失した創建時の大仏殿を再現、いつもは見ることのできない盧舎那仏の背面など、あらゆる角度から見た大仏の姿を、高さ約7メートル、幅約8・5メートルの大画面で再現します。奥行き約23メートルの天井面にも創建時の空などが映し出されます。また平成館ラウンジに設置する大仏の右手の実物大レプリカは、一緒に写真撮影ができます。このほか、さまざまな関連イベントを用意して皆様のご来館をお待ちしております。
(たかはし ゆうじ・東京国立博物館情報課長)
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