
レンブラント 光の探求/ 闇の誘惑
《東洋風の衣装をまとう自画像》1631年
パリ市立美術館/cPetit Palais/Roger-Viollet

《音楽を奏でる人々》1626年
アムステルダム国立美術館/cCollection Rijksmuseum, Amsterdam

《書斎のミネルヴァ》1635年
個人蔵/cPrivate Collection, New York

《石の手摺りにもたれる自画像》1639年
アムステルダム、レンブラントハイス/cThe Rembrandt House Museum, Amsterdam
■掲載作品は全て、レンブラント・ファン・レイン(1606-69)
レンブラントと言えば西洋絵画を代表する大画家の一人であり、彼の生きた17世紀を「レンブラントの世紀」と呼ぶ人もいる。当然この大画家については後代の画家や批評家、美術史家によって様々に語られてきたが、とりわけ、「光と影の画家」という呼び名は彼を語る上で不可欠な常套句として用いられてきた。しかし、光や影に大きな関心を寄せ、それを表現することに腐心した画家は彼以前にも、また同時代以降にも大勢いた。その中で彼が「光と影の画家」と形容されるに値するとすれば、それは、それら先人たちが試行錯誤しながら成し遂げた明暗表現の様々な革新を総合し、さらに大きな表現の可能性に挑戦したからに他ならない。その挑戦の跡を、彼の初期から晩年に至る諸作品によって辿るのが、「レンブラント光の探究/闇の誘惑」である。
本展には、レンブラントの版画を中心に、絵画や素描、版画の原版が、同時代のオランダの版画とともに展示される。展覧会は4つのセクションから成り、初めのセクションではレンブラントの黒い諧調表現にスポットを当てている。17世紀オランダ版画は、版画コレクターたちから「黒い版画」と呼ばれ人気を集めた。それほど、この時代のオランダ版画においては黒の諧調表現が重要となっていたのである。その中で、レンブラントの「黒い版画」を代表する三本の木( 20頁)や貝殻などの版画作品や、それに対応するような暗調表現を持った数点の絵画作品が展示される。
続く第2セクションでは、レンブラントの重要な革新のひとつである、異なる紙の使用を取り上げる。レンブラントが使用した紙の中でも最も重要なものは和紙であると考えられている。和紙は、白さを特徴とする西洋紙と異なり、薄いクリーム色や象牙色の中間色を地色とする着彩紙であった。この淡い中間色をレンブラントはことのほか好んだ。和紙を使用し始める1647年頃は、彼がより複雑な明暗の表現を探究していた時期と重なる。その中で、和紙を用い始めたのは、単なる異国趣味などではなく、和紙が彼の目指す表現において重要な役割を担っていたからに他ならない。和紙の使用は紛れもなく、レンブラント芸術の本質に由来するものであった。本展では、レンブラント版画を代表する作品のいくつかで、和紙刷りと西洋紙刷りのものが展示されている。とりわけ、病人たちを癒すキリスト(百グルデン版画)は、当時から傑作として知られる作品である。画面は、右側の精緻に表わされた暗い部分と、左側の線だけで表現されたスケッチのような明るい部分という異なる表現の追求によって構成されている。これによって非常に広い明暗の幅が与えられており、彼の明暗表現の一つの完成を示す作品である。この版画にも和紙刷りと西洋紙刷りが存在し、本展ではその両方を展示している。また、ヤン・アセレインや書斎の学者(ファウスト)などには和紙以外の紙を使用した作品も展示される。これらの作品から、紙の違いにより版画の印象が大きく変化するのを感じていただけると思う。このオランダの巨匠がどのような表現を出すために紙にまでこだわったのか、それを考えながら作品をご覧いただければ、個々の作品がより魅力に満ちたものとなるだろう。グルデン版画)は、当時から傑作として知られる作品である。画面は、右側の精緻に表わされた暗い部分と、左側の線だけで表現されたスケッチのような明るい部分という異なる表現の追求によって構成されている。これによって非常に広い明暗の幅が与えられており、彼の明暗表現の一つの完成を示す作品である。この版画にも和紙刷りと西洋紙刷りが存在し、本展ではその両方を展示している。また、ヤン・アセレインや書斎の学者(ファウスト)などには和紙以外の紙を使用した作品も展示される。これらの作品から、紙の違いにより版画の印象が大きく変化するのを感じていただけると思う。このオランダの巨匠がどのような表現を出すために紙にまでこだわったのか、それを考えながら作品をご覧いただければ、個々の作品がより魅力に満ちたものとなるだろう。

レンブラント・ファン・レイン《三本の木》1643年国立西洋美術館
第3セクションでは、レンブラントの明暗表現に対する関心がどのように変化し、その表現を発展させたのかを、初期から晩年の版画を通してご覧いただく。また、このセクションには、光と影の描写に特徴を持つ初期から晩年までの絵画作品も展示されている。版画と絵画という異なる媒体において、明暗表現の異同や相互の関わりを見ることができるのはこのセクションの大きな魅力であろう。とりわけ、レンブラント初期の傑作であるボストン美術館のアトリエの画家には、複数化された光源による複雑な光と影の描写という、彼の明暗表現の本質につながるものが認められる。画家と板絵の置かれたイーゼルだけが強調される、質素なアトリエを描いた本作品で、彼の達成した明暗表現の一端をご覧いただきたい。

レンブラント・ファン・レイン
《エッケ・ホモ(民衆に晒されるキリスト)》第8ステート
1655年アムステルダム、レンブラントハイス
?The Rembrandt House Museum,Amsterdam
最後のセクションに展示されるのは、三本の十字架とエッケ・ホモ(民衆に晒されるキリスト).. 21頁)のみである。しかし、この2点の版画によって、レンブラント版画の真髄に触れることになる。この2作品は、レンブラント版画を代表する傑作版画であり、また、ドライポイントと呼ばれる技法のみで制作された希有な作例でもある。本展では三本の十字架4点とエッケ・ホモ5点の、ステートや紙の異なる版が展示される。版画において、原版から最初に刷ったものを第1ステート、そこから原版に変更を加えて刷り直したものを変更を加えられた順に、第何番目のステートと呼ぶ。最初の刷りだけで終わる作品もあれば、複数のステートが存在するものもある。この2作品は、それぞれ第5ステートと第8ステートまで存在する。そしてどちらの作品も、途中のステートから劇的な変更が加えられている。それは単なる修正という域を超え、別の作品へ作り変えたような印象すら与える。さらに、そのステートの進展とともに、用紙も大きく変更している。この2点の多くの版に触れることは、刷る側(銅版原版)と刷られる側(版画用紙)がともに変化する、レンブラント版画の本質を認識するまたとない機会になるに違いない。是非会場に足をお運びいただき、その本質をご自身の目で実際にご確認していただきたい。
(たかしろやすゆき・本展覧会アシスタント)
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