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東京文化会館の五十年−振り返りそして未来へ

松本辰明

(左)現在外観(西洋美術館より)(右)1961年外観(西洋美術館より)(c)渡辺義雄

(左)現在外観(西洋美術館より)      (右)1961年外観(西洋美術館より)(c)渡辺義雄

 上野駅公園口正面にコンクリートむき出しの巨大な塊がそびえている。まずは、大きく空に向かってせり出した庇が目を惹く。建物はコンクリート打ちっぱなしの幾つもの大きな柱に支えられた一辺が約80mのほぼ正方形をした建物である。予備知識がないと、これがコンサートホールとすぐには結びつかないかもしれない。少し距離を置いて建物を眺めているうちに、ある形が見えてくる。

 空に開いた庇の形や屋根から突き出た造作物などから、船の姿をかたどっているように思えるのである。

 設計者がそれを意図していたかどうか分からないが、船のイメージから喚起されるものがある。

時という海の中をこの船は音楽をのせて航海してきた
五十年という歳月を経てまだ途上にある
しばし立ち止りふりかえりそして未来を想う

 東京文化会館の五十周年を迎えるにあたっての基本コンセプトとしてこの言葉を掲げた。言いたかったことは、東京文化会館の成り立ちと歴史を正しく振り返るということ、多くの実績を積み重ねてきたが、この歩みはまだ途上にあり、さらに未来につなげる機会とするということである。そうした思いを念頭に、思いつくまま、東京文化会館の来歴や五十周年記念事業などについてご紹介したい。

 一九六一年四月七日に東京文化会館は開館した。戦後まもない五十年台初めに構想され、完成まで実に十年近い歳月を要したことになる。オペラやバレエ公演も可能な本格的なクラシック専用ホールを建設したいという声が財界を中心に起こり、東京都の江戸開都五〇〇年記念事業として建設が実現した。設置場所も当初は複数の候補地があったが、現在地が比較的用地確保が容易だったことが決め手となった。上野駅が近いため、当時蒸気機関車の騒音や振動を避けるためにホールの配置に苦労した話などが残っている。建設費用についても、東京都と財界で分担し、足りない分を寄付キャンペーンで賄ったという。

 それから、隣に立っている西洋美術館とは密接な関係があることも忘れてはならない。西洋美術館はフランスの建築家ル・コルビジェの設計で有名であるが、彼は全体のコンセプトとスケッチを示し、実施設計は弟子の前川國男が担当した。ル・コルビジェのスケッチには、音楽ホールも含まれていたという。西洋美術館の二年後に完成した東京文化会館がそれに倣ったものかどうかは分からないが、両者は共通の遺伝子を併せ持っていると言える。

(左)大ホール(コンサート)  (右)外観(早朝)

(左) 大ホール(コンサート)       (右) 外観(早朝)

 前川氏は建物そのものもさることながら、壁や床を彩る装飾物、テラスの造作物、調度品に至るまで細心の配慮を加えていた。天の川を思わせる天井の照明効果、ホワイエの柱を樹の幹に、床のモザイクを落ち葉と見立てた森のイメージ、お花畑と称される大ホール椅子の色使い、螺旋階段など枚挙のいとまがない。極めつけは大ホールの舞台両袖にある反響板で、日の出と日入りの雲の形を示すとか、太陽と月、あるいは男と女のイメージなど幾つもの説が伝っている。過日、ホール両側の反響板を写真に撮りひっくりかえしてみると確かにそこに人の顔が浮かび、遊び心というものも垣間見えて、興味深く思ったものである。

 ところで、竣工の折、どこかにタイムカプセルが仕込まれたという言い伝えが残っている。関係者にいろいろ尋ねているが、いまだにその在りかは分からないままである。どんなメッセージがカプセルに埋め込まれたのか、何とか発見したいものである。

 開館以来、この場所で華麗なる名演の数々が繰り広げられてきた。おそらく戦後の我が国の音楽史において、それは稀有なことであったろう。開館直後に行われた世界音楽祭では、バーンスタイン率いるニューヨークフィルや英国のロイヤルバレエ団などの公演が新しいホールのデビューを飾った。爾来、世界の名だたるオペラやバレエ、オーケストラの公演が続いた。八〇年台に、サントリーホールなどが完成するまでは、在京オーケストラの定期公演のほとんどが東京文化会館で開催されていたことも忘れ難い。

 このように、人々の熱い思いによって建設された建物の価値とそこでの数々の音楽シーンの記憶が相まって、東京文化会館のステータスが形成されてきたのである。

 そして、多くの歳月を経て、今年五十周年を迎え、一年にわたって、記念事業を展開する。

 まず、「過去を振り返る」という観点から、五十周年記念誌「東京文化会館ものがたり」を出版する。一般書籍としても広く読まれるように、新聞社とのタイアップにより、東京文化会館に関わりの深い方々のインタビューやエッセイ、貴重な写真をふんだんに盛り込み、読み応えのある本にできたと思う。ぜひ手にとっていただければと思う。

 四月七日の開館日には、バースデイコンサートとして、インバル指揮東京都交響楽団により、開館時に最初に演奏されたベートーベンのエグモント序曲などを披露する。

 十一月には、五十周年記念フェスティバルとして、数週間にわたって、記念式典、記念ガラ、記念オペラ「古事記」公演、東京音楽コンクールガラコンサート、地域連携事業、写真展など多彩な事業を行うことにしている。

 こうした記念事業を企画実施することによって、館の創造発信力をさらに高め、未来につなげていきたいと思っている。

 ちなみに、これまでの東京文化会館の実績と戦後の音楽史への貢献が認められ、日本郵政から東京文化会館五十周年記念切手が発行されることになった。大変名誉なことである。

 私はかねがね、舞台芸術や音楽は直接人々の心に働きかけ感動を与えることができる芸術分野であり、公共ホールはそうした芸術を伝える「感動装置」であると言ってきた。東京文化会館がこれからも、「感動装置」としての機能を大いに発揮していくことを願っている。感動こそが、人々や地域を元気にし、未来に向けた新たな創造と人々の連帯の源泉となるものだから。

 上野公園入り口に停泊する音楽の船は、さらなる感動の航海を続けていかなければならない。

 [編集部注] 4月7日の「バースデイコンサート」は公演中止になりました。

(まつもとたつあき・東京文化会館副館長)

 


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