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恐竜博2011

真鍋真

ティラノサウルス復元画?(c)?Utako Kikutani

 近年、一年に50種以上の新種の恐竜が発表される「当たり年」が少なくない。だから、恐竜のニュースをたくさん見聞きするし、恐竜展も毎年のように開催されている。そんな中で、「馴染みのない新種の恐竜ばかりでわかり難い」、「ニュースが多すぎてフォロー出来ない。どうせまた変わっちゃうんでしょ?」というような声を多く耳にするようになった。私は、ティラノサウルスやトリケラトプスの様な有名な恐竜でも、毎年のように重要なことがわかって来ていることを紹介しながら、今後5年くらい特に重要になるだろう絶必の知識を厳選して解説する展覧会をやることにした。それがこの「恐竜博2011」である。

 アメリカのイェール大学のピーボディ自然史博物館には、今から約3億6000万年前の古生代・デボン紀の爬虫類誕生前夜から、大部分の恐竜が絶滅してしまった約655 0万年前の中生代・白亜紀までの爬虫類の進化を解説した、長さ約33メートル、高さ約5メートルの大壁画がある(カラー頁)。壁画の芸術的な魅力は60年以上経った現在でも変わりない。しかし、そこに描かれている恐竜たちは大きく変わった。この壁画そのものを恐竜博2011に持ってくる事は出来なかったが、この壁画のコピーを地図のようにして、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀と時代を追って、それぞれの代表的な恐竜たちの最新の理解を解説している。

 ティラノサウルス

 壁画の左端は白亜紀最末期の北アメリカ。恐竜界の人気ナンバーワンの座を競い合うティラノサウルスとトリケラトプスが描かれている。ティラノサウルスは全長13メートルの巨体で知られる肉食恐竜だ。その長い後肢は6トンもの体重を支えるのに相応しいたくましさを持っている。それに比べて前肢は長さ1メートル未満、人間の大人くらいの長さしかない。ジュラ紀のアロサウルスなど他の肉食恐竜には3本の指があることが基本だが、ティラノサウルスには2本しかない。自分の口にエサを運ぶことも出来なければ、転んでも受け身を取ることも出来ない。ティラノサウルスの頭は顔面から地面に叩きつけられることになる。肉食恐竜は頭が大きくなる傾向があるが、大きな頭と長い尻尾で前後のバランスをうまく取っている。壁画のように尾を引きずっていたら、バランスを取れなかっただろうことは恐竜ファンなら常識だろう。ティラノサウルスのように頭が大きくなると、重心が前半身に偏りすぎてしまうため、頭とトレードオフで前肢が相対的に小さくなったと説明されてきた。ダチョウの翼が消失したように、ティラノサウルスが進化を続けていたら、前肢もなくなってしまっただろうとさえ言われて来た。一方、胸の叉骨には、疲労骨折の様な痕跡がある化石が多数発見されていることから、前肢は日々何かに使われていたはずだと指摘されていた。

ティラノサウルスと前肢の長さを比べて喜ぶ筆者 撮影:横川英一

 米オレゴン大学でコンピューター工学を教えるケント・ステーヴンス教授は、プログラミングの授業で少しでも学生に興味をもってもらおうと思って、恐竜に関する課題を出すようになり、自身も恐竜の骨格の動きに関して数々の研究を行うようになった。その中で、ティラノサウルスは、ブーツ状に発達した恥骨を地面につけると、両足と恥骨が三脚のように安定して座れることを確認できた。これなら待ち伏せをしたり、眠るのに好都合だっただろう。しかし、このように深く座ってしまうと、リュックサックを背負って尻餅をついてしまったようになり、起き上がるためには、一度、手を地面について、重心を前方に移動させなくてはならない。ティラノサウルスは、あの短い前肢で腕立て伏せのように地面に手をつかないと、楽に立ち上がれない可能性が明らかになった。ティラノサウルスの前肢は無くなるわけには行かなかったのだ。

 国立科学博物館はもちろんのこと、全国の博物館でティラノサウルスの全身骨格は展示されているのだが、足りないところがある。胸の叉骨と、腹の腹肋骨である。他の骨との関節の仕方がよくわからなかったため、なかなか全身骨格で復元されることがなかった。今回、叉骨と腹肋骨を復元した全身骨格が国立科学博物館で初めて公開されるのだが、さらに今回は、今からあの短い前肢を使って立ち上がろうとしている姿の全身骨格を世界で初めて組み立ててみた(カラー頁)。普段は見上げるのが基本のティラノサウルスだが、しゃがんで私たちの目線に近くなったティラノサウルス体験はかなり斬新だ。腹肋骨を備えたティラノサウルスは、これまでよりもどっしりと見えるかもしれない。もしかしたら好き嫌いが分かれるかもしれない。この度、CGとフィギュアで部分的に羽毛が生えたティラノサウルスの復元仮説を提案した。壁画のようにウロコで覆われたティラノサウルスが好きなファンには、どのように受け入れられるのか、ちょっと心配なのが正直なところだ。

 トリケラトプス

 トリケラトプスも前肢に注目して欲しい。恐竜を首長竜や翼竜やワニなどの他の爬虫類と区別するには、大きな理由がある。それは、恐竜が爬虫類の基本的な姿勢から大きく変化をしているところにある。爬虫類は四足歩行で、ヒジとヒザを体の横に突き出して、胴体をくねらせて前進するのが基本形だ。一方、恐竜は二足歩行になり、ヒザを体の横に突き出すのではなく、体の真下に伸ばすのが基本形になった。恐竜があれだけ繁栄できたのは、他の爬虫類よりも速く、遠くまで行けたことに原因があったと考えられている。四足歩行の恐竜は皆、二足歩行の仲間から四足歩行に戻ったものたちだ。

 トリケラトプスは、壁画のようにヒジを横に突き出して復元されることが多い。博物館の来館者からは「トリケラトプスはヒジを横に突き出しているので、恐竜ではないのですか?」と聞かれることがあった。私は、「角竜の親戚は二足歩行なので、四足歩行になる時に、恐竜らしくない前肢の地面への下ろし方をしたのでしょう」と答えていた。ただ、なんでそんな前肢のつき方をしたのかが説明出来ず、モヤモヤしていた。東京大学の大学院生だった藤原慎一さん(現・東京大学総合博物館)が、国立科学博物館に展示されているトリケラトプスの実物化石のヒジと手首を研究した結果、ヒジを横に突き出していなかった可能性が高いことを明らかにしてくれた。恐竜博2011では、その新しい復元仮説を全身骨格にしてみた(カラー頁)。もちろん世界初の新復元である。

 150周年と15周年

 始祖鳥の学名が命名されて、今年でちょうど150周年になる。知り尽くされているように思われる始祖鳥だが、現在でも次々と新しい研究がされている注目の化石だ。最新の始祖鳥化石「サーモポリス標本」を日本初公開する(実物化石の展示は7月10日までの期間限定)。かつては羽毛が生えているだけで鳥類に分類されたのだが、いまでは始祖鳥は鳥類よりもむしろ恐竜に分類すべきだという声も聞かれる。

 というのも今から15年前、中国で最初の「羽毛恐竜」が発見され、どこまでが恐竜でどこからが鳥なのか、その境界線を引くのがむずかしいような羽毛恐竜が次々と発見されているからだ。日本初公開のアンキオルニス(カラー頁)は始祖鳥に限りなく近い恐竜として知られるととともに、2010年に世界で初めてほぼ全身の色が判った恐竜だ。「図鑑に載っている恐竜の絵はみんな想像で、色なんて判らない」というこれまでの常識は、いまや非常識になろうとしている。ぜひ、恐竜博2011にこれらの恐竜たちに会いに来ていただきたい。

(まなべ・まこと 国立科学博物館・研究主幹)

 


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