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上野動物園 七年間を振り返って

小宮輝之

日本在来種の木曽馬と、子ども動物園で

日本在来種の木曽馬と、子ども動物園で

 この七月三十一日をもちまして上野動物園園長を退任しました。二〇〇四年八月一日以来ちょうど七年間務めたことになります。のれん会の皆様方には、いつも心強い味方として、応援していただきましたこと、心より感謝申し上げます。

 私は飼育課長の四年間を加えると、十一年間続けて上野動物園で仕事をすることができました。同じ職場に長くいたおかげで、自分の理想とする上野動物園像のいくつかを実現することができたと思っています。

 私が力を入れたいと思い、実現に漕ぎつけた事が三つあります。一つは日本の動物に主役の一端を担わせることでした。クマたちの丘の完成で、ツキノワグマを冬眠させることができたことは、私の動物園人としての集大成かもしれません。四十年前、多摩動物公園に就職した新米飼育係の担当動物の一つはクマでした。ヒグマもツキノワグマも冬になると食欲が無くなり、放飼場の落ち葉を集めて巣のようなものを作り、眠たそうにうとうとしていました。

 日本人ならクマが冬眠することは誰でも知っています。しかし、動物園では冬でも餌を与え、クマを起こして飼い、積極的に冬眠をさせる動物園はありませんでした。クマを冷蔵庫のような冬眠ブースに閉じ込め、餌も与えないということが報道されると、批難の投書もいただきました。しかし、無事冬眠を終え元気に目覚めたクマの姿がマスコミ等で報じられると、批判は無くなったのです。この年は前年比で約一割も入園者は増え、日本の動物でも、お客さんを呼べることを証明しました。今シーズンはクマ本来の姿である冬眠中の出産もあり、かわいい子グマもお目見えし、うれしい限りです。

 二つ目は不忍池をウとハスの単純な池から、より多様な生物のすむ池に変えたことです。よく「上野動物園の自慢はなんですか?」という質問を受けます。動物の名前が出てくると思っているみなさんの期待に反し、「不忍池です」と答えてきました。

(左)不忍池のコウノトリ (右)子グマと29歳の小宮さん

 半世紀以上も前に、東京湾から姿を消しつつあったカワウを不忍池で保全し、地域絶滅から救ったことは日本での域外保全の走りだったといっても過言ではありません。しかし、千羽以上に殖えたカワウは毎日東京湾から大量の窒素、燐酸、カリを不忍池に運ぶことになり、ハスを大繁茂させました。特定の生物だけが繁栄すると、自然はだめになる。昨年は国際生物多様性年で、生物多様性の重要さが少しは浸透したはずです。

 ウの糞で真っ白になったハゲ島に、オオワシを放したところ島に緑が復活しました。植物食のハクチョウを放したところ、蓮根を食べるのが判りました。不忍池に生物のバランスが戻れば、予算を食うハス刈りも必要なくなることでしょう。今年は五羽のコウノトリの放し飼いもはじめています。赤羽の語源はトキの朱色の羽と言われています。森鴎外の雁という小説の舞台は不忍池です。ガンが羽を休め、コウノトリやトキもすめる生物多様性の池、江戸時代の不忍池にみなさんがタイムスリップできる日がもうすぐ来ることでしょう。

三つ目は四十年前にヤギやロバの飼育係からはじまった家畜に対する思いが在来家畜に行き着いたことです。子ども動物園で飼われていた馬も牛も豚も山羊も鶏も西洋の品種から、千年以上にわたり日本人の生活を支えてきた日本在来の品種に変えました。子ども動物園が命の教育に加えて、日本人の生活を支えてきた生ける文化財の存在を知らせ、日本人の創った遺伝子を保存していることは、いつか上野動物園の誇りとなることでしょう。

上野動物園は日本を代表する動物園として、世間から注目され、マスコミにも取り上げられます。ライオンがいなかった時期、投書の第一位は上野でライオンを見たいというものだったのです。パンダがいなくなってからは、パンダの復活が第一の要望になりました。ライオンは日本中の動物園にいますし、パンダを飼っている動物園もありました。しかし、お客さんは『上野のライオン・上野のパンダ』でないと満足しないようです。

少し前の動物園界ではゾウ、キリン、ライオンというのが無くてはならない動物で、動物園の『三種の神器』とよんでいました。ところが上野動物園だけは、パンダを加えた『四種の神器』を揃えなければ、納得してもらえない動物園になっていたようです。国民的動物園である上野動物園の負っている宿命のようなものを感じたものです。『四種の神器』を揃えるという懸案もなんとか片づきました。

七年前、園長に就任した日にマスコミからインタビューを求められました。当然、園長就任の抱負を語るのかと思い待ち構えたものです。ところが質問は「旭山動物園に入園者数で負けた感想は?」というものでした。二〇〇四年七月の月間入園者数は、常に一番だった上野を旭山が追い抜き大ニュースになったのです。今年七月の入園者数は七年ぶりに上野が旭山を上回り、日本一の座を挽回しました。もうひとつの懸案も片づき、退任することができホッとしている次第です。

(こみやてるゆき・前上野動物園長)

 


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