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座談会 東京文化会館誕生 1961年4月号再録抄

  

司会:徳川夢声 会館設計者:前川國男 東京都教育庁文化課長長:谷川和夫 会館建設所長:鈴木直美 上野のれん会会長:須賀利雄

須賀
この上野は、芸術大学の前身の音楽学校の昔から、日本の近代音楽育成の地ともいうべき土地柄でありながら、立派な音楽ホールがなく、さみしい思いがしておりました。このたび「東京都記念文化会館」という壮大なホールが完成しまして、われわれ地元としましても非常にうれしい。そこできょうは、設計者の前川さん、東京都の文化課長の長谷川さん、現場を指揮なされた建設所長の鈴木さん、それにわれわれ市民の代表者として徳川先生においでをいただきまして、大いに語っていただきたいと存じます。

長谷川
工事費は十三億五千九百万円です。土地は都有地ですから無償ですが、元からあった貸席の移転保障費が二千万円ぐらいかかっております。

徳川
坪数にしてどのくらいですか、敷地は。

長谷川
建物の敷地は約二千二百坪ですが、まわりの管理面積を入れると三千四.五百坪になるでしょうか。

徳川
高台、設備完、眺望絶佳、駅至近、という大変ないい場所だな。

鈴木
そうしますと、仮に坪三十万としても約十億です。

長谷川
だから、ほかで地所を買っているようなら、もっと莫大にかかるわけです。前川先生は非常にご不満だったんです。はじめ都がお願いにあがった時に、予算は十三億、内容はこれこれと申しあげたらそれではわたしにはとてもできませんとポンとお断りになったんです。

須賀
前川さんに設計を頼むという英断を、よく東京都が思いきられましたね。

徳川
都にしては、ですね。(笑声)

長谷川
二度目にお願いにあがって、ようやくお引きうけいただいたんです。

前川
はじめはあそこにミュージックセンターをたてるという話だった。その時にもまず二十億はかかろうと申し上げておいたんですが、それが東京開都五百年記念の文化会館にきりかわって、オペラもバレエもということになって、それで十三億じゃとてもいかん。やはり二十億という見当は正しかったと思っているんですが。

長谷川
そのうえ、国際会議場も加える、音楽図書館もあり、都政資料展示の施設も加えて下さいという盛りだくさんの注文です。

徳川
結局、十三億じゃすまなかったんでしょう。

長谷川
十三億五千九百万円は一文も超過してないんです。ただ全館冷房ができないが、鈴木さんたちのお骨折りで工事の落差金を利用願って、それができました。

鈴木
後になってやろうとすると、えらい破壊を伴うし、不可能に近いことを発見したのでどうしても踏みきらなければと、皆さんのご協力でやったわけです。

長谷川
はなはともかく、上野の山は涼しいから、それでもいいだろうということで。(笑声)

徳川
これは大変ですよ初めにやっちまわないと。

須賀
前川さんの文化会館をはさんで、コルビュジュの作とはいえ坂倉準三さんが骨を折られた西洋美術館と、和風建築で一派をなしておられる吉田五十八先生の芸術院会館と、お三人の作品が並んだ。昭和の建築として、百年、二百年の後にどう評価されるか期待がもてます。

徳川
まん中の広場に花壇があり、噴水ができると、ちょうどうける印象の中和地帯になりますね。

前川
私どものねらいとしましては、いろんな建物がより集まって、てんでんばらばらではまずい。それで大きさはだいぶ違いますが、一つのふんい気があそこに出てくるということを…。たとえば、文化会館の大きな軒がありますね、あれは西洋美術館の軒の高さとそろえてあるんです。劇場は、舞台裏が非常に高くなってしまって、かっこうのいいものにならないのが普通なんです。だから大きな軒だけをそろえて、舞台の裏なんかはなるべくコンパクトにまとめてみた。あそこは住宅地域なので、建物の高さに二十メートルの制限があります。普通のやり方ではとても収まりきれませんから、舞台のほうを地面に沈めました。

徳川
なるほど。

前川
人が大勢寄るところですから、招きよせるふんい気がなければならない。それで軒に大きなカーブをつけて、抵抗を感じないでずっと入れるような、日本の昔からの伝統的な大屋根が持っている、おおいかぶさるような抱きこむような感じを出したいと思ってやったわけです。

徳川
その感じは確かに受けとれますね。

前川
音響のほうは、オペラもバレエも、シンフォニー・オーケストラもというのは、非常にむずかしい。NHKの音響の研究家の方が協力してくださって、何とかできているんじゃないかと思います。日本という国はふしぎなもので、物事がきまるまではこうるさくひまがかかって、きまるといついつまでに幕をあけろと急せきたてますな。建物は試運転しないで矢庭に使いだす。こまったことです(笑声)

徳川
貧乏人が電話をひいたようなものでしてね。珍しくてすぐさま使いたくてしかたないんですよ。(笑声)楽屋ですがね。バレエなどをやりますと、シンフォニーだけで百人ぐらい、コーラスがつくと場合によって二百人となっちゃう。だから控え室はたっぷり取っておかないと、出演者は廊下でメイキャップすることになりかねない。

前川
よくわかります。日本ではコマーシャルな劇場が多いので、観客席ばかりたっぷりとって、ろくな休憩室もない。パリの劇場のプランなどごらんになりますと、観客席は平面積の十何分の一です。あとはサロンとか、楽屋とか、物置なども兵隊用の甲が一連隊ぐらいずらっと並んでいるような具合です。そういうスペースが大事なんですが。日本ではお客が入りさえすれば劇場だと思っている。舞台も、こう、いじめられて、楽屋にいたっては……

徳川
余った空間を楽屋にする。その余りのまた余ったところに便所を作る。(笑声)

前川
いい芸術をみようというのに、かんじんのアーチストを虐待しては、なにもなりませんよ。今度はずいぶんその点つとめたはずなんですが。

鈴木
今の日本でここほどできているところはないでしょう。楽屋は、百五十人がメーキャップできる大部屋と、幹部の個室が六つ。楽団の方々の大部屋一つ、個室二つ。ステージと楽屋は同じ階で、サイドスペースもたっぷりとってあります。

徳川
日本の劇場では、休憩時間にも席にすわっている方が楽なんですね。廊下に出て行くともう肩けん摩ま殻こく撃げきですよ。そこに貧弱な売店があって、値段はベラボーに高くて、しかも食いものはまずいときてる。いたれりつくせりなんだ。(笑声)観賞と休憩をわけて感じとる客には、今までの劇場では不満だらけですね。

須賀
今度の場合は、それは非常によくできていますね。

前川
それは相当にとったつもりです。立派なテラスもございますが、舞台裏がまだまだ充分とは思っていないんですが、まあ一度中をごらんになっていただきます。

徳川
あれだけのものを建てることができたのは、当事者としては、生きがいをお感じになるでしょうね。

鈴木
この二年数ケ月は、私としては、建築をこころざして三十何年ですけれども、今までに一番充実した時間だったと思います。

徳川
いいお言葉だ。これを結びにしましょう。

天ぷら「山下」にて

  

 


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