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動物園の龍? 土居利光

トラ(スマトラトラ)

トラ(スマトラトラ)

毎年、多くの動物園では干支に因んだ動物の企画展を行なうのが恒例となっている。辰年には龍の展示となる訳であるが、創造された動物であるからその姿形は想像するしかなく、動物園泣かせの動物である。

とはいっても、龍は描かれ続けてきた。中国や朝鮮では龍を天の使者として、虎を山の神として神聖視してきた。龍は雨を降らせ、虎は風をおこすと考えられてきたことから、龍は雨雲と、虎は強い風とともに描かれることも多い。王城や墓所などの東西南北の方位を守護する四神は東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武が当てられた。奈良の高松塚古墳では朱雀はないものの、中国・朝鮮の影響を受けた四神図が見られる。また、朝鮮の民間では左の門扉に龍の文字、右には虎の文字を書いた手漉きの紙を張る風習が見られるという。日本でもかつては龍虎図が武家の玄関に権威の象徴として飾られることがあった。

虎は、六世紀頃から朝鮮から毛皮がもたらされたり、じかに目にしたりすることもあったが、龍は牧谿の手による龍虎図を手本とするなどして書いたのだろう。「本草綱目」には、龍には九つの似たものがあるとしている。つまり、頭は蛇、角は鹿、眼は兎、耳は牛、項は蛇、腹は蜃しん、鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、とする。そのほか口の脇に鬚しゅ髯ぜん(あごひげ、ほおひげ)、頷(下あご)の下に明珠がある。ちなみに蜃とは角と紅の鬣を持つ大蛇のような動物らしい。また、卵生であり、親が思いつめることによって離れた所にある卵が孵るというし、雄は上風に鳴き、雌は下風に鳴くとあるから雌雄の別もあった。なお、「本草綱目」も違いがあるなど異説もあって、頭を駱駝らくだ、眼を鬼、腹を鮫さめとするものもある。

龍の基本的性格は自然そのものであり、農耕の恵みの水をもたらすとともに、大雨・山津波といった猛威を示す力を持っている。日本では自然を崇める精霊信仰が古くからあったが、ヘビはその一つとなっていた。これを母体に龍が受け入れられ習合したと考えられ、年中行事や民間信仰の中にはヘビや龍が祭の主役にもなっている例がみられる。

ヘビの他にも、龍の誕生に関して、生物からワニを、自然現象としての雲、雷、竜巻などを起源とする話があるが、龍の造形とその造形の持つ意味とは無関係ではない。

左:立派な角を持ったシカ 右:フトアゴヒゲトカゲ (C entral B earded D rag o n)

左:立派な角を持ったシカ 右:フトアゴヒゲトカゲ (Central Bearded Dragon)

龍は創造された神獣としての動物である。こうした動物を具象化しようとすれば、現実の動物とは異なったものとならざるをえない。しかし、参考とすべき動物がいたことも否定できない。昔の人は、生殺与奪の自然界において自らの能力を発揮する動物の生態を観察し、その特長を熟知していた。こうして龍には、象徴性、異界を媒介する特性、再生観、エネルギー性などを表現するかのように、いくつかの動物が組み合わされたのだろう。

蛇は爬虫類に属し、かつては四肢がありトカゲに似ていたが、それが退化したといわれており、冬眠や脱皮を繰り返し、生命の復活をイメージさせる。これに、かつて北中国で最も恐れられた猛獣であるトラの鋭い爪を持つ足を組み合わせることが龍の第一歩と考えられる。

それに加えられた動物は、毎年再生され繁殖期の闘争に活躍するシカの角、夜間や薄明薄暮でも目が利くというウサギの眼、音のする方向に動くウシの耳、獲物を捉えて離さないタカの爪、などである。

空を飛ぶためには翼が必要であるが、龍には翼がない。うねうねと体を動かして水気の中を這い上るのが龍のイメージにぴったりである。

これに対して、西洋のドラゴンには翼があるのが一般的となっている。ドラゴンの語源であるギリシア語のドラコーンは蛇のことだというが、造形的にはドラゴンは、ワニかトカゲから発想されていると思う。多くの場合ドラゴンは火を吐き、英雄によって倒される存在となっているが、龍が持つ水と霊獣的な印象とも異なっている。東洋と西洋との動物観の違いの一端かもしれない。

恩賜上野動物園では「干支展〜龍にまつわる動物たち〜」が1月15日まで開催されている。龍の体の各部分を受け持った動物たちや、園で見ることができる龍にまつわる場所と動物の紹介のほか龍のイメージを自分自身が投票によって作り上げていくコーナーもあって、楽しめる工夫がしてある。これを機会に、動物の体の特徴を中心にして見て歩く動物園巡りをしてみたらいかがであろう。

(どいとしみつ・恩賜上野動物園長)

 


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