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歴史から将来を見つめる −恩賜上野動物園の130周年を迎えて−  土居利光

2012年3月20日、恩賜上野動物園は開園130周年を迎えることとなった。明治天皇の臨幸を仰ぎ、新設された博物館とともに開園式が行われたのが1882年(明治15)、場所は上野公園内の清水谷、現在の「ゴリラ・トラの住む森」付近の区域であった。1873年の建議書には、この場所に選定された理由が「数頃ノ池水有之、動植物生育培養等ニハ適当ノ地」と記されている。それから130年という年月を重ね、敷地も広がり、動物種も増えるなどしてきたのが現在の姿である。

歴史とは人間社会の変遷の過程の記録であり、何かを記録するには対象となる事跡の切り取り方が問題となる。こういった意味では歴史とは基本的に恣意的なものにならざるを得ない存在なのであろうが、その歴史を将来に活かすことを考えれば、何に着目して見るのかという焦点の定め方が最大の課題となる。動物園は動物を飼育し展示しているだけでなく、人間の動物への見方や考え方を披露している場所としての意味も持っているのだが、こうした視点に立つと動物観の変化に対応した歴史が見えてくる。現在の動物園の姿を形作ることとなった転換期は、1982年に迎えた100周年以降とするのが妥当であろう。つまり、ここ30年間で過去の動物園から現在の動物園へとその姿が大きく変わってきたのである。

この変化を象徴しているのが、1987年に東京都が策定したズー二〇〇一構想である。この構想は、ズーストック計画と環境学習の二つの柱から成っていた。そのうち動物園の具体的な姿に結びつくのはズーストック計画であり、可能な限り動物園で繁殖した動物を展示すること、都立の動物園は分担して動物の繁殖が可能な飼育環境を整備することなどが基本的な考え方とされていた。また、繁殖に重点を置いた種をズーストック種として位置付け、恩賜上野動物園はジャイアントパンダ、スマトラトラ、ローランドゴリラなど16種を受け持つこととなる。以降、この考え方に基づいた動物園づくりが進んできた。その第一号は、1991年(平成3)の多摩動物公園へのライオンの移動であり、動物舎では1996年に完成した「ゴリラ・トラの住む森」であった。

明治三十二、三年頃の園内配置図

ゴリラはもともと家族を中心とした群で暮らす動物である。群の飼育に近づけるために1993年から国内外からゴリラが集められ、試行が行われていった。群づくりは2007年にオスのハオコが加わり、一応の安定をみる。また、動物舎も以前とは異なり、コンクリートの運動場は草や木の生える土へと変貌した。この例のように所有者や経営者などが異なる動物園の間で動物の移動が可能となったことには、ブリーディングローンという考え方があった。動物の繁殖のために、所有権を動かすことなく動物の貸し借りをする文字通りの方法である。

1970年代から希少動物の多くが動物園生まれとなってきたと同時に、動物園に暮らす動物が野生から導入できなくなってきていた。さらに国際的な関心が環境問題に集まったという大きな背景もズー二〇〇一構想にはあった。1972年の人間環境会議の開催、それが元となって「世界遺産条約」や「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条例」などが後に採択される。そして1980年には「世界保全戦略」が発表され、「持続的な開発」の考え方が初めて提唱されたほか、遺伝子の保全に関して生息域内保全と生息域外保全の概念も導入されている。国際的な動向に動物園は無縁ではなかったのである。

1996年に完成した「ゴリラ・トラの住む森」

「ゴリラ・トラの住む森」に続いて、両生爬虫類館ができているが、2004年(平成16)に完成した現在のゾウ舎は、見る側との境がモートと呼ばれる堀であったものが柵となったことや、コンクリートの地面が土に変わったことなどゾウが自然に近い姿で暮らすことができる施設を目指した。さらに、2006年にオープンした「クマたちの丘」では冬眠というクマの生態に焦点が当てられた。マダガスカルの動物たちが暮らす「アイアイのすむ森」のオープンに続き、2011年にリニューアルしたホッキョクグマの施設は野生のホッキョクグマを収容する海外の基準を準用して作られている。

このような動物園づくりは、動物本位への指向ということができる。つまり動物の行動や生態を尊重した飼育方法や暮らす場所への探究である。奇しくも1873年の建議書には、動物園として選定した場所が動植物の生息、生育に適した土地であると述べられていたが、実はこれが動物園づくりの原点なのではないだろうか。130周年という節目に当たって今後の動物園の姿を考えることは必須である。平成24年度はジャイアントパンダ来日40周年と合わせ、上野の地における長い歴史を踏まえ、都心ではあるがそんなに広くはない敷地の中で、動物の生態を活かすとともに社会的な要請に応えて、地域の方々や来園者の皆さんとともに、野生動物と人間との関係を考え、それを具体的な姿として提示していきたいと思っている。

(どいとしみつ・恩賜上野動物園長)

 


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