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インカ帝国展 〜インカ帝国の謎を解き明かす〜  篠田謙一

バーチャルリアリティの技術で再現されたマチュピチュ遺跡
バーチャルリアリティの技術で再現されたマチュピチュ遺跡

南北アメリカ大陸は、コロンブスによる発見まで私たちの住む旧大陸とは交流がなく、独自の文明が発達しました。その中で南米アンデス山脈を中心とした地域は、4千年にわたって様々な文化が盛衰を繰り返す、この大陸の文化の中心地でした。国立科学博物館では、過去に謎の地上絵で有名なナスカや黄金文化シカンなど、この地域に栄えた文明を紹介してきましたが、今回はアンデス史上、最大で最後の古代文明であるインカをテーマとした展覧会を開催することにしました。

インカはアンデスの標高の三千メートルを超える高地に居住していた民族的には少数派の集団でしたが、15世紀前半から領土の拡張を進め、16世紀前半には北はコロンビアから南はチリ中部にまで領土が広がる巨大な国家を造りあげました。しかしその繁栄は百年と続くことはなく、わずか百六十名ほどのスペイン人によって征服されて滅亡します。

私たち日本人にもよく知られたインカですが、実は彼らがどのような文明を持っていたのか、その全貌を紹介する大規模な展覧会は、これまで日本では開催されたことがありませんでした。この展覧会では、インカの人々とその文化、彼らの帝国、そしてスペインによる征服後にその社会がどのように変貌したのかを、様々なインカ時代の遺物や工芸品、そしてミイラなどを使って説明します。展覧会に出品される百六十点の作品は、そのほとんどが日本初公開となります。

インカの人々は、壮麗な石造建築物を残しました。その中で最も有名なのが世界遺産にも登録されているマチュピチュ遺跡でしょう。自然と一体となったその造形美は、私たち日本人にも深い感銘を与えます。今回の展覧会では最新のバーチャルリアリティの技術を使い、この遺跡の姿を立体映像シアターで再現します。そのために世界で初めてマチュピチュ遺跡全域の三次元計測を行い、デジタル化されたそのデータから、遺跡の全貌を正確に描き出しました。最先端の3D技術が、この古代遺跡をどのように表現するのか、展覧会ではバーチャル技術の現時点での到達点をご覧いただけます。

文字も鉄も、車輪すら持っていない社会が、どうしてこのような壮麗な石造建築物を作り上げることができたのか。かくも短い時間での巨大帝国の形成とあっけない崩壊など、謎に満ちたインカの実像について、百年以上にわたって世界中の様々な分野の研究者が注目し、調査と研究を続けてきました。特に近年における研究の進歩はめざましく、今世紀になって新しいインカ像が提示されています。今回の展覧会では、アメリカ、ペルー、ドイツ、フィンランドそして日本など、いくつもの国の研究者による、考古学、建築学、美術史学、民族学、言語学、歴史学、人類学といった多岐にわたる研究分野からの最新の知見を統合して、新たなインカの姿を紹介しています。

その中でも展覧会の柱となるのは、遺物から過去の社会を復元する考古学、人骨やミイラの研究を通してインカの人々の由来と生活を再現する人類学、そしてスペイン人や征服された先住民の残した記録を元に考察を進める歴史学の研究成果です。この3つの分野の研究成果が描き出すインカの社会の姿には、今を生きる私たちが目の当たりにしている多様な現代社会を理解するヒントがあります。

インカは、アンデスという複雑な生態環境と、そこに栄えた様々な古代文明の統合によって生み出されました。そこには旧大陸に住む私たちとは異なる、独特の世界観、社会習慣、美意識、論理、社会体制がありました。しかし、その根底には同じ人間としての普遍的な価値観も共有されているのです。

 (c)TBS/TOPPAN2012
(c) TBS/TOPPAN2012

人類が新大陸に進入するのは、今から2万年ほど前。その末裔であるインカの人々を含む新大陸の先住民は、東アジアの集団の中から派生しました。私たちと祖先を共有する人々が、それ以降の歴史の中で、独自に築き上げた新大陸の文明は、人間とは何か、文明とは何かという根源的な問題を考える時に、貴重な情報を提供します。彼らは独自に農業を始め、旧大陸と同様に宗教を作り、国家を形成していきました。私たちの社会を作る基本的な枠組みは、独立に発生しうるものなのです。しかしその一方で、私たちの社会では考えられないような様々な制度や創造物もありました。インカの人々が何を考え、何を作ったのかを知ることは、人類社会の普遍性と多様性を理解することにつながります。私たちは展覧会を通じて、来場者の方々に驚異に満ちたインカの社会の実像と共に、このことを知っていただくことを心から願っています。

(しのだけんいち 国立科学博物館人類研究部)

 


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