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動物園のヘビ −疑問を持つ楽しさ−  土居利光

左:ヒバカリの舌 中:ヤマカガシ 右:アオダイショウ
左:ヒバカリの舌 中:ヤマカガシ 右:アオダイショウ

ヘビは、恩賜上野動物園では両生爬虫類館(ビバリウム)で見ることができる。両生類と爬虫類は、採集や飼育の方法など何となく似ているという感覚で一緒に扱われているが、大きな違いがある。たとえば、体を覆う皮膚が柔らかく水を通す両生類に対して、爬虫類は乾いた鱗で水を通さない。同様に、カエルの卵に見るように両生類では水中に水を通す外皮がある卵が産み落とされるのに、爬虫類では固い殻につつまれていて、生まれたコドモも乾いた場所でも大丈夫である。爬虫類の仲間であるヘビは、こうした特徴を持つほか、手足がなく、瞼がなく、外耳もない。

だから、ヘビは嫌われるのかもしれないが、もう一つ、ウネウネと動く肢体にも原因がありそうだ。この動きには、爬虫類の特徴である鱗が大きな役割を果たしている。屋根瓦のように配列された腹の部分、いわゆる蛇腹状になっているが、その鱗は筋肉によって前後に動く。腹の一部では滑りを止め、また他の部分では動かすという動作でヘビは真っ直ぐにも進むことができる。しかし、これでは遅くなるので、体全体でS字形を作る運動によって速さを獲得する。こうして、地上のみならず、泳ぎもでき、木にも登っていくことができるのである。木に暮らすヘビは、さらなる移動手段を発達させている。それは尾であり、体の後ろの部分を木に巻きつけ、頭を伸ばし、首を巻き付け、尾を引き上げるという作業を繰り返す。上野にいるテングキノボリヘビ(写真51頁)は、その名の通り樹上生活者であり、オスとメスとでは体の色が違っているのはヘビの仲間では極めて珍しい。

ほ乳類などとは異なって、爬虫類は省エネルギー体質となっている。一定の体温を維持することがないため、わずかな食べ物でこと足りる。砂漠など普通では生きることが難しい環境にも暮らすことができ、棲みかを拡大してきたのも頷ける。手も足も出ない、とは困り切ったことを言うがヘビには無関係だ。ヘビは手も足もないことを進化の過程で獲得してきた。普通は環境に適応するのに不利なこと獲得したのでは生き残れない。トカゲの仲間が地下の生活に適するように進化して手足を捨ててから、再び地上での暮らしもするようになったとも言われるが、約二四〇〇種に及ぶヘビは、そうした進化の証しであろう。

菜食主義者であるヘビはいない。ヘビによって大きさは様々であるが、生きている動物を餌にするから、逃げられないように捕まえるのだが、待ち伏せするタイプと追いかけて捕まえるタイプとがいる。待ち伏せは、相手が来るまで我慢して待つことが基本で、ニホンマムシなどが該当する。追いかけるタイプは、相手を見つけるために徘徊し、狙いを絞ったら忍び寄って捕まえるタイプであり、アオダイショウが代表的であろう。そっと忍者のように行動しなくてはならないが、アオダイショウの鼻孔が後ろ向きになっているのも、吐く息に気づかれないためとも言われている。

また、ヘビには嗅覚、視覚、聴覚、触覚、味覚などが備わっているが、餌を探す最初の段階で活躍するのは嗅覚である。ヘビが先の二つに分かれた舌をチロチロと動かす姿をよく目にする。そこには驚くべき舌の役割があり、地面に触れたり、空中で振ったり、水の中に入れたりして、化学物質を集め、上あごにある器官に入れて臭いを嗅ぎ分けている。こうして獲物や交尾の相手を探しだす。一方、透明な鱗で覆われ瞼がないため、近くで見ると存在感があるのは目であり、それも視力はかなり良いらしい。いろいろなヘビを見ていると、縦長楕円形と丸形の目があるのが分かる。前者は夜型のヘビの特徴で、目が光に敏感なため昼間に効率よく光を遮断できるようにこの形の瞳孔となったといわれる。

ヘビは捕まえた獲物を飲み込むが、鉤状の歯は獲物が逃げるのを防ぎ、喉の奥に送りこむのに使われる。ヒバカリのような小さなヘビは、オタマジャクシやカエルなどを生きたまま飲み込む。変わり者はアフリカタマゴヘビ(写真51頁)で、命名された通り卵を飲み込むが、頭の倍の大きさでも大丈夫である。首の部分の脊椎骨から突起が食道に向かって突き出ていて、卵を切り裂き、殻だけを吐きだす。このように、ヘビは飲み込むという食べ方のため、呼吸が楽にできるようにと気管が下あごの前まできていて、口の中を見ればそれと分かる。

ここに例示したヘビは両生爬虫類館で見ることができる。さらに日本産のヘビの仲間では、ヒバカリ、アオダイショウ、ジムグリ、シマヘビ、ヤマガカシ、ニホンマムシなどを飼育している。日本の動物園や水族館のなかでも、これだけの日本産のヘビを一堂に見ることができる場所は少ない。今年は巳年であるが、ヘビはどうしても嫌われ者になりやすい。しかし、なぜ舌をヒラヒラさせるのか、どうやって移動するのか、なぜ頭より大きいものを飲み込めるのか、なぜ毒をもったヘビがいるのか、…興味をそそられる疑問もたくさん出てくる。疑問を持ってヘビを見ていると一種の親しみが湧いてくる。巳年にヘビの世界を再認識するのも快感であろう。

(どいとしみつ・恩賜上野動物園園長)

 


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