= Cntents Menu =
| TOP | 上野の山の文化施設案内 | 雑誌うえの紹介 | 加盟店紹介 | 上野MAP |

 
恩賜上野動物園のこれから −開園記念日によせて−  土居利光

恩賜上野動物園は、今年で開園131年目を迎えることとなった。1882年(明治15)にできた日本で一番の歴史を持つ動物園であるが、ヨーロッパには多くの先輩たちがいる。恩賜上野動物園が開園するちょうど130年前にオーストリアのウィーン動物園が誕生している。その後、スペインのマドリード動物園、フランスのメナジェリー(パリの動物園)と続くが、これらの動物園は18世紀の生まれである。19世紀に入ってから、1882年までの間にヨーロッパでは、21にも及ぶ動物園が姿を現した。

では、ここで言う動物園とは何であろうか?広辞苑を引くと動物園とは「各種の動物を集め飼育して一般の観覧に供する施設」とされている。辞書では各種の動物となっているが、今の動物園で飼育されているのは主に野生動物である。しかし、野生動物を飼育するという歴史は古く、紀元前からの記録がある。注目すべきは、「一般の観覧」という点にある。ウィーン動物園は、1752年、シェンブルン宮殿に造られた動物コレクションに始まるが、1765年に一般に公開されたことから、近代動物園の先駆けとされる。

昨年の5月、ハンガリーの首都ブダペストで「IVY ZOO」という会議が開催された。文字通り、蔦の動物園、100年以上の歴史のあるヨーロッパの動物園がその対象であるが、恩賜上野動物園も参加することができた。こうした動物園には、共通の課題がある。都会の中でどのようにすれば狭い場所を広くすることができるか?建物や施設のデザインはどうあるべきか?歴史をどのように繋げていくべきか?21世紀の人々の期待に応えるために何をなすべきか?等など。参加者は50名、動物園の関係者はもとより、研究者、デザイナー、建築家なども含まれていた。フランスのメナジェリー、ドイツのライプチィヒやフランクフルト動物園などからの発表と質疑を主にして会議は進んでいった。

会議では、檻を使わないで動物たちを見せること、動物の生息環境に則した場所を用意すること、動物園が定めたテーマに沿って動物を収集すること、こうした結果として動物の種類が少なくなってもやむを得ないこと、魅力的な展示や施設をデザインすること、などといった動物園の方向性が浮き彫りにされた。

上野動物園イソップ橋から不忍池の眺め

上野動物園イソップ橋から不忍池の眺め

こうした議論の背景には、今日の動物園の特質がある。それは第一に、動物園の管理には多くの人工エネルギーを消費せざるを得なくなっていること。第二は、自然界からの動物の入手が少なくなり、動物園間の交換によって行なわれるようになってきたこと。第三は、製品化された飼料や肉・野菜を購入するなど動物の餌の確保が会社などに依存していること。第四には、雑誌に動物園のランキングが公表されるなど動物園そのものが一種の商品のように扱われる傾向が見られることなどである。

恩賜上野動物園は日本におけるIVY ZOOであり、その目指す方向については二点が重要であると考えている。第一は、飼育している野生動物について、理解し共感を持ってもらえるようにすること、自然への共感を呼び起こすことに一層の努力を払うことである。多くの人は、このままでは野生動物の生存が危ないという漠然とした感覚はあるにしても、それを意識することは少ない。こうした一種の麻痺感覚を覚醒させる役割を果たすのが動物園である。例えば、生息環境により近い暮らしを実現させ、その成果として今年には子の誕生が予定されているニシローランドゴリラ、また、野生から保護されたホッキョクグマを預かることができるように配慮して造られた動物舎、子の誕生に至ったオニオオハシ(次頁にカラー掲載)の巣への工夫などは、気づきの題材となる。現代では、多くの野生動物の生息域が失われてきており、例えばトキのように、その地域にしか生息しない固有種に関心が集まっている。今、ライチョウの保全のための試みとして恩賜上野動物園を始めとして幾つかの動物園でスバールバルライチョウ(次頁にカラー掲載)の飼育を始めている。また、ジャイアントパンダも希少な野生動物であり、将来の野生復帰を視野に入れると、相性の良いリーリーとシンシンに子の誕生が期待される。こうした地道な取組を伝えることによって野生動物と人間とを結ぶ架け橋が架けられていくだろう。

目指す方向の第二は、地域の核としての意義をより発揮することである。一昨年に完成したアザラシとアシカのプールでは、子供の視線から水の中が良く見え、時折、子供たちの大きな歓声があがる。こうした感動が交歓の場を生み出していく。恩賜上野動物園は、気取りもなく、会話もはずみ、行きやすく、日常の束縛と離れて、楽しむことができる、家族の場、カップルの場、動物の愛好者の場なのである。さらに、海外からの観光客を含めて、見知らぬ他人同士が何らかの形で関係し合う場の役割も担うこととなる。都心にあって貴重な自然を残す不忍池などは風景となり、時間の経過とともに地域の人々の思い出や記憶となる。地域とともに歩んできたのが恩賜上野動物園の力の源であり、これからも上野という地域の核として歩み続けることが活力ある動物園づくりに欠かせない。

(どいとしみつ・恩賜上野動物園園長)

 


東京都文京区湯島3-44-1芦苅ビル  〒113-0034
TEL 03-3833-8016  FAX 03-3839-2765


Copyright (c)2002 Ueno Shop Curtain Meeting. All Rights Reserved.